ダークソウル考察「涙」その3 前編(イリーナとイーゴン)
2にて涙の女神クァトの存在が明らかになり、3では彼女に従者モーンがいたことが判明する。彼らに関する奇跡やアイテムのテキストからは2人の間に悲劇的物語があったことが仄めかされ、シリーズ最後にようやく「涙」に物語性が与えられた。なぜ女神クァトが一部では「絶望の運命へと導く悪神」とされるのか、クァトとモーンをなぞらえたであろうNPCであるカリムのイリーナとカリムのイーゴンのイベントを通じて解き明かされる。
まずはモーンが何者なのか、その名を冠した装備のテキストを見てみよう。
モーンの兜・鎧
カリムの騎士に与えられる異形の兜・ (異形の鎧)
大司教の使徒モーンを象ったものであり
特に兜は司教座に並ぶ石像の頭部そのものである
・(石に似た特別な鉱物で鋳造されている)
カリムの騎士は、生涯1人の聖女に仕えるという
かつてモーンが、ある女神に仕えたように
「異形」を「象った」ということはモーンは人間ではなかったのではないだろうか?兜の形状から察するにデーモンが最も近い種族に思える。デーモンは必ずしも他種族に敵対している訳ではなく、アノールロンドやロスリックで使いをしていたり、北の不死院やロスリックへの橋で番をしているものもいた。何らかのきっかけでデーモンのモーンはクァトに仕えるようになったのだ。そして彼(?)の行いがカリム騎士の在り方のモデルとなったのである。
2019/4/16 追記
この日の朝パリのノートルダム大聖堂の火災のニュースが報じられた。その写真の中にモーンの兜そっくりのガーゴイル像があった。尖った耳に嘴のような口、細く長い舌をベロリと出していて、違いは捻れた角がないだけでほとんどそのものである。シリーズ通してガーゴイルは鐘など何かを守っており、無印のガーゴイルの兜のテキストには「魔法生物」とある。モーンはガーゴイルである説のほうが濃厚である。モーンの指輪のテキストに「全ての弱きものを慰める力」とある。モーンはクァトを守るために動き出したのであろうか。
ガーゴイルは元はゴシック建築の壁を雨水で傷ませないための樋(とい)の役割があったようだ。それと同時に罪を吐き出すなど宗教的意味合いを持つようになったという。やがて樋の役割を持たせない異形の像を飾るなど変化があったようである。詳しくはガーゴイルやゴシック建築のウィキペディアのページを参照されたい。
因みにノートルダムのイーゴンそっくりの像は19世紀の修復の際に加えられたそうだ。ブラッドボーンの設定時代と同じ頃である。ブラッドボーンは東欧を舞台に設定しているので場所こそ違うが、ヤーナム市街にもガーゴイルと思しき多数の像が見られる。
余談ではあるが、ダークソウル世界に時空間の歪みがあるとはいえ、ロートレクの頃はまだカリム騎士の在り方は正式に定まっていなかったのではないだろうか。根拠としてはまだ奇跡「治癒の涙」が魔術「治癒」だった時代だからである。しかしカリムの騎士が約束を守り、(口の悪さの割に)意外と義理堅いことは時を経ても共通しているようである。逆に女神フィナを狂信したロートレクの噂が故郷カリムまで伝わり、何がしか影響を与えたことはあったかもしれない。
それでは女神クァトの悪神とされる理由を、イリーナとイーゴンのイベントから探っていこう。
イーゴンが全身に纏うのは先程のモーン装備一式である。ロートレクが金色の寵愛の装備一式を纏い、全身でフィナの寵愛と美を表現していたのとそっくりである。イーゴンの持つ盾は呻きの盾(呻きは英語でmoan)。歳離れた姉を象ったという大盾である。得物は使徒モーンの怒りを宿すと言われるモーンの大槌。盾の戦技は「呻き」で敵を惹き寄せる効果がある。大槌の戦技は「モーンの怒り」で惹き寄せた敵を一気に弾き飛ばすことができる。弱いイリーナを敵から守るためにはうってつけである。
このようにイーゴンは(あの口ぶりでは決して言わないだろうが)モーンの如く聖女イリーナに生涯仕える覚悟を全身で示しているのである。しかしイリーナは盲目なので、彼の姿はおろか、まして彼の覚悟を汲み取ることなど出来ない。何たる悲劇的すれ違い。
そして悲劇は続く。イリーナは闇を受け入れる強さのない、弱い女であった。「暗く、何も見えず、闇が私を噛むのです」「虫たちが、私を噛み苛むのです」と、闇を恐れ、怯えていた。そのためイーゴンが手筈を整えたものの火防女になれなかったのである。絶望した彼女はイーゴンにこの上ない残酷な約束をさせる。次に自分に触れる時には殺してくれ、と。カリムの騎士は約束を守ることを知っての上のことである。
その結果、イーゴンは仕えるべきイリーナに触れることも出来ず、まして殺すことも出来ない、いかんともし難い状況に陥った。せめて彼女が死ぬことのないように檻の中で保護し、ひとり絶望の淵に佇んでいたのである。そこへ現れるのがプレイヤーという訳なのだ。
女神クァトの従者モーンの似姿であるイーゴンの悩み苦しみから、クァトが悪神とされる理由が察せられるだろう。しかしより根拠を示しておきたいので次回もイーゴンと「涙」の絶望に付き合ってもらう。
まずはモーンが何者なのか、その名を冠した装備のテキストを見てみよう。
モーンの兜・鎧
カリムの騎士に与えられる異形の兜・ (異形の鎧)
大司教の使徒モーンを象ったものであり
特に兜は司教座に並ぶ石像の頭部そのものである
・(石に似た特別な鉱物で鋳造されている)
カリムの騎士は、生涯1人の聖女に仕えるという
かつてモーンが、ある女神に仕えたように
「異形」を「象った」ということはモーンは人間ではなかったのではないだろうか?兜の形状から察するにデーモンが最も近い種族に思える。デーモンは必ずしも他種族に敵対している訳ではなく、アノールロンドやロスリックで使いをしていたり、北の不死院やロスリックへの橋で番をしているものもいた。何らかのきっかけでデーモンのモーンはクァトに仕えるようになったのだ。そして彼(?)の行いがカリム騎士の在り方のモデルとなったのである。
2019/4/16 追記
この日の朝パリのノートルダム大聖堂の火災のニュースが報じられた。その写真の中にモーンの兜そっくりのガーゴイル像があった。尖った耳に嘴のような口、細く長い舌をベロリと出していて、違いは捻れた角がないだけでほとんどそのものである。シリーズ通してガーゴイルは鐘など何かを守っており、無印のガーゴイルの兜のテキストには「魔法生物」とある。モーンはガーゴイルである説のほうが濃厚である。モーンの指輪のテキストに「全ての弱きものを慰める力」とある。モーンはクァトを守るために動き出したのであろうか。
ガーゴイルは元はゴシック建築の壁を雨水で傷ませないための樋(とい)の役割があったようだ。それと同時に罪を吐き出すなど宗教的意味合いを持つようになったという。やがて樋の役割を持たせない異形の像を飾るなど変化があったようである。詳しくはガーゴイルやゴシック建築のウィキペディアのページを参照されたい。
因みにノートルダムのイーゴンそっくりの像は19世紀の修復の際に加えられたそうだ。ブラッドボーンの設定時代と同じ頃である。ブラッドボーンは東欧を舞台に設定しているので場所こそ違うが、ヤーナム市街にもガーゴイルと思しき多数の像が見られる。
余談ではあるが、ダークソウル世界に時空間の歪みがあるとはいえ、ロートレクの頃はまだカリム騎士の在り方は正式に定まっていなかったのではないだろうか。根拠としてはまだ奇跡「治癒の涙」が魔術「治癒」だった時代だからである。しかしカリムの騎士が約束を守り、(口の悪さの割に)意外と義理堅いことは時を経ても共通しているようである。逆に女神フィナを狂信したロートレクの噂が故郷カリムまで伝わり、何がしか影響を与えたことはあったかもしれない。
それでは女神クァトの悪神とされる理由を、イリーナとイーゴンのイベントから探っていこう。
イーゴンが全身に纏うのは先程のモーン装備一式である。ロートレクが金色の寵愛の装備一式を纏い、全身でフィナの寵愛と美を表現していたのとそっくりである。イーゴンの持つ盾は呻きの盾(呻きは英語でmoan)。歳離れた姉を象ったという大盾である。得物は使徒モーンの怒りを宿すと言われるモーンの大槌。盾の戦技は「呻き」で敵を惹き寄せる効果がある。大槌の戦技は「モーンの怒り」で惹き寄せた敵を一気に弾き飛ばすことができる。弱いイリーナを敵から守るためにはうってつけである。
このようにイーゴンは(あの口ぶりでは決して言わないだろうが)モーンの如く聖女イリーナに生涯仕える覚悟を全身で示しているのである。しかしイリーナは盲目なので、彼の姿はおろか、まして彼の覚悟を汲み取ることなど出来ない。何たる悲劇的すれ違い。
そして悲劇は続く。イリーナは闇を受け入れる強さのない、弱い女であった。「暗く、何も見えず、闇が私を噛むのです」「虫たちが、私を噛み苛むのです」と、闇を恐れ、怯えていた。そのためイーゴンが手筈を整えたものの火防女になれなかったのである。絶望した彼女はイーゴンにこの上ない残酷な約束をさせる。次に自分に触れる時には殺してくれ、と。カリムの騎士は約束を守ることを知っての上のことである。
その結果、イーゴンは仕えるべきイリーナに触れることも出来ず、まして殺すことも出来ない、いかんともし難い状況に陥った。せめて彼女が死ぬことのないように檻の中で保護し、ひとり絶望の淵に佇んでいたのである。そこへ現れるのがプレイヤーという訳なのだ。
女神クァトの従者モーンの似姿であるイーゴンの悩み苦しみから、クァトが悪神とされる理由が察せられるだろう。しかしより根拠を示しておきたいので次回もイーゴンと「涙」の絶望に付き合ってもらう。
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